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博士、今日は、事業用の建物賃貸借契約についてのご質問が来ているよ。居住用の建物賃貸借契約との違いを教えて下さい。 |
まず、基本的には居住用も事業用も借地借家法によって、貸主よりも借主の方が保護されているということでは同じなんだけど、居住用賃貸借契約の場合は主に生活のためということで、消費者契約法などによって守られていることが多いんだよ。 |
そうなんですかぁ。 |
消費者契約法では、「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)だけど、事業は、営利、非営利を問わないと規定されているんだよ。 |
事業用の賃貸借契約においては個人であっても消費者ではなく商人同士の取引ということになり、居住用の賃貸借契約のように、借主に不利な条項が後に無効になったりはしないよ。 |
だったら、博士どうすればいいの? |
そうだね、事業用の賃貸借契約では、まずどのような目的で物件を借りて使用するのかを伝えて、物件が決まれば事前に賃貸借契約書の見本を見せてもらい、不都合なところや不利な内容が記載されている場合には協議して内容を変更してもらい、納得のいく説明を受けて契約するようにしなければいけないよ。 |
博士、どんなことに注意すればいいの? |
主だった注意点を上げると、まず物件選びの段階で、法令上の制限を受けないかを確認することが大切だよ。立地や建物の外観だけで決めてしまって、後から営業できないという風にならないように、事前に調査しておく必要があるんだよ。例えば事務所で使おうと思ってマンションの分譲貸しを借りたら、居住用しか認められないと管理組合から指摘され、立ち退きを要求されたということも有るので注意してくださいね。 また、業種によっては都市計画法の用途地域の制限や、風営法、建築基準法、消防法などの制約を受けることもあるので、希望する業種や営業形態に係る規制等を調べておくことだね。 |
業種や営業形態によって違うんだね。 |
次に注意するのは、借りる時の建物の状態の確認だよ。物件の内覧時の状況で引渡しを受けるのか、違うのかということだよ。建築中であったり、改装中であったり、店舗の営業中であったりと、さまざまな状況で見ることが多いと思うけど、引渡しの状況をしっかりと聞いておくことだね。特に店舗などの居抜き(前借主の内装等を引き継いで借りること)の時には、どの設備が無くなるのか、残るのかをリストアップしておくことが大切だよ。 |
だんだんと具体的になってきたね。 |
そうだね。いよいよ契約の話になってきたよ。 敷金については以前に、賃貸借の重要事項説明の時にお話ししたように、その物件の登記記録に記載された事項等の抵当権等の状況をよく確認してから決めるようにしようね。もし、その物件が競売にかかった場合には敷金の返還を受けることが難しくなるかもしれないし、ましてや店舗などの場合は、敷金以外にも店舗の造作などの初期投資が多く掛かると思われるので、充分に調査・検討が必要だよ。 |
それは仲介をする宅建業者さんも充分に調査が必要だね。 |
それと、居抜きなどの場合における権利金の内容や造作物の取り扱いにも注意が必要だよ。 |
どんなこと? |
権利金は何のための費用で誰に支払うのかを確認しておくことだよ。権利金がそのまま造作費ということではないのでその内訳を聞いておくことが大事だよ。 それから、造作物の退去時の取り扱いを貸主に確認しておくことも必要だよ。せっかく権利金を出して購入した造作を退去の際に撤去しなければならないということも有るので注意してくださいね。 |
店舗の場合はいろいろとたいへんだね。 |
スケルトン(建物の壁・柱・天井のみの状態)で借りた場合にも退去時に再度スケルトン状態に戻すのかどうか、あるいは、権利譲渡や造作物の買取の請求が出来るのかもあらかじめ取り決めておく方がいいですね。一般的には、権利譲渡や造作物の買取の請求等は認められないケースの方が多いようだよ。 |
やっぱり居住用とは違うんだね。 |
そうだね。内装済み物件の場合の原状回復についても居住用とは違い事業用の場合には、経年変化や通常損耗の部分も含めて、借りた当初の原状への回復を借主へ要求することが多かったけれど、これからはそれらのことも契約前にその範囲を取り決めて契約書に記載しておかなければ認められない場合もあるようだよ。 |
解約時にトラブルにならないように決めておくんだね。 |
それから、気を付けておかなければならないことは、解約の予告時期だよ。居住用の場合は希望する解約日の1か月前までに借主から貸主へ通知することが一般的だけど、事業用の場合には、3か月前までや6か月前までに予告することとされているケースが有るので注意が必要だよ。 |
契約途中の解約も出来るんだね。 |
一般の賃貸借契約の場合には解約予告期間を守って通知をすれば解約は可能だけど定期建物賃貸借契約の場合には基本的には中途解約の規定がないので、借主は物件の使用、不使用にかかわらず契約期間の終了までの賃料を支払わなければならないので注意が必要だよ。居住用の定期建物賃貸借契約のような特例処置もないので、中途解約の規定を設けるかどうかは当事者間で事前に取り決めるようにしたほうがいいよ。 |
定期建物賃貸借契約ってあるんだぁ。 |
それから、賃料の支払いが遅れた場合の遅延損害金の利率は、遅延損害金の取り決めがない賃貸借契約書の場合では、貸主が事業として賃貸業を行っている場合は年利6%までの割合で、そうでない場合は年利5%までの割合であれば、貸主は借主に請求することができるのですが、あらかじめ賃貸借契約書に取り決めがある場合にはそれが適用されます。 |
だったら、高い利率を決められてしまうのではないんですか? |
そこで、居住用の賃貸借契約の場合は、遅延損害金の取り決めがある場合には消費者契約法で制限されている年利14.6%以上は無効となるんだよ。ところが、事業用の場合には消費者契約法の制約を受けないので、利息制限法を参考にすると以下のようになります。
賃貸借契約書に遅延損害金の記載があるようであれば、記載されている利率を確認して、上記金利より高い利率が記載されているようであれば交渉するといいでしょう。 |
やっぱり、事業用の賃貸借契約は前もっての話し合いが大切なんですね。博士、他にも確認しておくことはありますか? |
そうだね。あとは契約期間と更新料の有無、管理費や光熱費等の支払い方法や商店会費などの特別な費用負担の有無などだね。 要するに始めに言ったように、事業用の賃貸借契約においては個人であっても消費者ではなく、商人同士の取引ということになるので、法的な保護はなく賃貸借契約書に記載された内容が基本となるので各条項をよく読んで理解し、不利だと思う点は事前に交渉することが大切だということだよ。 |
そうですね。 |
もし、分からない点や不安に思うようなことがあれば、契約する前に大阪宅建協会をはじめ不動産関連団体が窓口となる相談所まで相談して下さいね。 |
ライター 長尾 敏春(北摂支部会員)