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不動産取引Q&A 「相続争いは身近に!?」

2013/09/13 カテゴリー: その他

 

 こんにちは、今回は、心ならずもご自宅の売却依頼に来られたAさんのお話です。Aさんは、Bさんとお二人で暮らしておられましたが、Bさんがお亡くなりになられたため、ご自宅を売却する決意をされたようです。

 

 「心ならずも」というのはどういうことですか?

 

 Bさんは先に奥様を亡くされていたため、相続人は娘さんであるCさんお一人だけだそうです。Cさんは既に結婚して、Bさんとは別に生活しておられました。Bさんは、亡くなった奥様が病に伏せられた頃からAさんと交際し始めていたようで、奥様亡き後は、長年Aさんと同居され、Bさんの晩年は、Aさんが献身的に介護をしておられました。ですが、Aさんの存在がお母さんの寿命を縮めたと思ってらっしゃる娘さんの反対で、AさんとBさんは籍を入れることができないまま今日に至ったそうです。Bさんは、Aさんの老後のことを考えて、ご自宅の土地・建物3,000万円をAさんに遺贈するという遺言を残されました。
 そもそも、Aさんは、Bさんと正式な婚姻関係にないのですが、遺産を取得することができるのですか?

 

 人は遺言によって、自由に死後の自分の財産の帰属を決めることができ、財産を他人に無償で与えることもできます。これを遺贈といいます。一方、民法では、遺言が存在しない場合に、各法定相続人が譲り受けることのできる遺産相続の割合が定められており、これを法定相続分といいます。例えば、妻が2分の1、子が2分の1などというように定められているのですが、今回のケースの場合、法定相続人はお子さんであるCさんお一人だけですから、Cさんがすべて相続することになります。ただし、遺言が存在する場合には、相続に関しては遺言事項が優先します。つまり、相続においては、遺言が原則、法定相続が例外という序列になっているのです。このため、遺言は、遺言者自らが自分の残した財産の帰属を決め、相続を巡る争いを防止しようとすることに主たる目的があるものということができます。

 

 相続対策に遺言の活用が勧められているのはそういう理由からなのですね。ところが、Cさんから待ったがかけられたということなのです。遺言があってもCさんは権利を主張する方法があるのですか?
 なお、Bさんは土地建物のほかに1,000万円の預金を残しておられ、この預金はCさんが相続により取得されているそうです。

 

 民法は、兄弟姉妹以外の相続人に対する最低限度の遺産の保障として、遺留分制度を設けています。遺留分とは、一定の相続人のために法律上留保しなければならない相続財産のうちの一定の割合のことをいいます。現在の私有財産社会では、ご自分の財産を死後においても自由に処分できることが建前ですが、これを無条件に認めると、家族の生活保障、家族の財産形成への有形無形の寄与がまったく考慮されない事態も起こるので、これを調整しようとするものです。今回のケースでいうと、Cさんの遺留分は、相続財産全額の2分の1、すなわち2,000万円ということになります。Cさんは、1,000万円の預金を相続しているのですから、土地・建物を取得したAさんに対して、残りの1,000万円の支払いを求めることができるのです。これを遺留分減殺請求といいます。

 

 Aさんは、その1,000万円を支払う資力をお持ちでないということでご自宅の売却を余儀なくされたということのようです。

 

 支払いについては、現物の遺産で支払う方法と、請求額に応じた金銭で支払う方法があります。今回の場合、現物で支払うといっても、取得した遺産は不動産ですから、これを切り刻むわけにはいかず、共有持分3分の1を譲渡することになります。ですが、不仲なお二人が不動産を共有しても、今後もトラブルの種になることは目に見えています。結局、ご自宅を売却して支払うしか方法がなくなったのでしょう。これでは、亡くなったBさんの思いは遂げられなくなってしまったということですね。Bさんは、預金をCさんに相続してもらうことで解決を図られたのでしょうが、遺留分も考慮した対策を講じておくべきでした。

 

 相続税法が改正されて増税になり、遺産争いのこともよく話題に上っていますが、財産が少なければ、相続対策も無縁のものだと思っていました。

 

 実はそんなことはありません。相続争いについて、平成23年の最高裁判所の統計資料によると、遺産分割事件のうち調停が成立した「遺産の価額別」件数によれば、総数7,892件で、遺産の価額は以下のようになっています。

 この統計は、1年間に裁判所に持ち込まれた相続争いの中で、調停が成立した件数のうち、一体いくらぐらいの価格帯の遺産で争われていたのかを裁判所でまとめたものです。
 これによれば、遺産の価額が1千万円以下の占める割合は31.3%、5千万円以下だと合わせて76.5%を占めています。今回のケースのような自宅不動産以外に分けるものがない場合など、遺産額の多寡にかかわらず、相続争いになっている現実を垣間見ることができます。

 

 遺言があっても揉めるときは揉めているのでしょうね。

 

 Aさんの場合のように、遺言も完璧なものではありませんが、遺言が無ければAさんは土地・建物を取得することができませんでした。遺言が無力なのではなく、配慮すべきポイントを押さえて作成することが重要なのです。一般的には、遺言がないことの方が多く、日本経済新聞社の「日経生活モニター」のアンケートによると、8割超の人が「遺言を書いていない」など、相続の準備をしていないと回答しています(平成24年8月15日)。遺言が無いために,相続を巡って親族間で争いの起こることが少なくないのです。今まで仲の良かった親族が,骨肉の争いを起こすことほど,悲しいことはありません。相続争いを防ぐ第一歩は、もちろんご生前から関係者間でよく話し合うことが重要なのですが、遺言によって遺産相続の意思を明確にしておく効用は大きいといえるでしょう。最近では、遺言に替わる制度として「信託」(注)を使う例も増えてきているようです。いずれにしましても、ご家族の幸せ対策を考えておくことは重要で、必要があれば専門家に相談することも大切なことでしょうね。

 

 

 

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